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私がこの20年ハエ竿にこだわっているのは、何しろ釣ってはこの竿が最高に面白いからである。
若い頃は、庄内竿を使って毎週休みの日は必ずと云って良いほど釣に出かけた。庄内竿は釣っては面白いのだが、安物の庄内竿だから手入れが大変なのだ。安い竿は癖がつき易く、手入れは欠かせない。そんな手入れが面倒くさい等と云う人は釣をする資格が無いと云われればそれでお仕舞いなのだが、それでも釣りはしたいと云う自分は欲張りな人間である。上手と呼ばれた釣師は、手入れも好きな内と云い、庄内竿の手入れを欠かさないで大事に保管している。しかしながら、使い始めると釣行が週に数回という事もあって、毎回手入れするのは実に大変なのである。
グラス、カーボンの竿が出て来て、釣竿は格段に軽く安くなった。とにかく和竿と違って格別に軽く、丈夫である。グラス、カーボンの竿は和竿ほどの面白さは無いが、一日振っていても大丈夫なくらいに軽い。特に胴に来る庄内竿の三間半の長竿を使って、竿を一日振った日には、次の日は仕事が出来ないくらいに堪える。確かに和竿には和竿の良さがあり、カーボンにはカーボンの良さがある。また、グラスにはグラスの良さがある。しかし、逆に欠点もある。
庄内竿を使っていた者としては、釣は量を釣る事と云う前に遊びである事に徹する事が重要な事である。庄内竿を持っている人は、大抵数よりも釣り方に拘る人が多い。黒鯛の数を釣るよりも、一枚一枚を大事に釣って、如何に長く楽しんで上げる事の方が重要なのである。游魚としての釣りは、同じ釣りをしても、釣って見せていくらのプロの釣りではない。数を釣ったり、大型のみを狙っていては、釣りを楽しむ余裕が無い。過去に競争意識が働き他人との比較で面白くない事が幾度かあった。今はそんな事も無くなった。だから釣の大会等には、もう十五年以上出席していない。同じ釣るなら楽しむ釣りをしたいからである。
カーボン竿で一番和竿に近い曲がり方をするのが、ハエ竿と考えている。軽くて、肉薄すなこの竿はちょっと無理すれば折れてしまう。ただ、自分にはそれをカバー出来るだけの技術があると勝手に思い込んでいる。軟らかいから細仕掛けが使用出来る。極端な話、自信があれば道糸が0.6号でもいい。しかしそこまでは自信が無いので道糸は1.0号にしてハリス0.6〜1号を標準にして使っている。太くて弱いテグスを使っていた戦前の釣師だったら現在の0.6号を使えば、多くの人が年無しクラスを楽に釣り上げる技術をもって居ていたであろうと思う。
二歳、三歳から尺二寸位を釣る分には自分も0.6号で十分にいける。スリルを味わいながらの釣だから面白いのである。そして自信が無いから挑戦する。その挑戦はこれからの一生の生きがいとなっている。昭和50年ごろ友人にヘラ竿改造の中通し竿に道糸1.5号、ハリス0.4号つけ見事黒鯛の一尺9寸(54cm)を上げたツワモノがいた。海が荒れていたので玉ウキを使いイサダ釣りで、合わせ一発で3回ほどハリスをブッチギられたが、やっと4回目にして上げだと云う。同軸リールに巻いた50mほどの道糸の殆んどを使っての大勝負だったそうだ。其の時の魚拓が軸にして残っている筈である。やれば出来るのである。だが、残念なことに自分には、其のチャンスが未だ巡っては来ない。
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